絶滅寸前…V8エンジンを搭載した日本車3選
車のトレンドというものは、経済や環境、人々の思想などによって変化してきました。
半世紀以上前の日本車が未熟だった時代にはパワステ搭載やAT搭載のアメ車が、30年前のバブルには高級車やハイスペックカーが流行り、10年ほど前の世界金融危機には燃費やHVが叫ばれました。
そして現在のトレンドは"ダウンサイジング"です。大衆車に限らず、高級車にもこの流行は当てはまります。スイスポは1.4Lターボになりましたし、LS500hはV6 3.5Lにハイブリッドを搭載してV8 5.0Lに相当するパワーを引き出すと謳っています。その他の高級車や大型スポーツも、搭載するエンジンは4気筒なんてことが多くなってきました。
この"ダウンサイジング"の煽りによって消滅の危機にさらされているのが独特のサウンドに定評のあるV8エンジンです。
ダウンサイジングの時代が終わったとして、次に来るのは間違いなく日進月歩のEVやPHVです。環境に悪いだとか税制の関係とかで、日本で大排気量エンジンが日の目を浴びることはもうないでしょう。
今回は、そんな消滅寸前のV8エンジンを搭載した日本車を紹介していきます。
トヨタ ソアラ/レクサス SC430
バブル期に爆発的な人気を誇った初代/2代目ソアラ。3代目に入ってから、レクサスとの兼ね合いでボディが巨大化しイメージがガラッと変わってしまったこと、不況が始まったことが重なって人気はイマイチになってしまいました。
そんなソアラにはセルシオと同じV8エンジンが搭載されていました。
マイナーチェンジで消えたV8モデル
3代目ソアラは、280psを叩き出しMT設定もある直6 2.5Lターボモデル、中古で安価で手に入れられる直6 3.0Lモデルにばかり目が行きがちですが、実はV8搭載モデルが存在していたのをご存知ですか?
「取り敢えず一番高いの」…バブル期の東京のディーラーならこんな会話が行われ、V8ソアラの売約が毎日のように行われていたでしょう。しかし、そんな時代は昭和で終わってしまいました。3代目がデビューした時代、それは平成の大不況時代。こんな時代にV8 4.0Lのクーペが売れるでしょうか。
驚くほどに売れず、結局平成8年のMMCで廃止になってしまいました。
モデルチェンジで全グレードV8に統一
平成15年、ソアラは4代目へとモデルチェンジしました。
それまでのソアラのイメージを全て洗い流し、本格的にベンツSクラスクーペと張り合えるような高級GTとなるべく、屋根は電動メタルトップに、エンジンはV8 4.3Lに統一されました。
ソアラであることよりもSC430であることを優先した設計のため、昭和時代のソアラの面影はなく、そのせいかメーカーもあまり売る気は無かったようで、レクサス上陸までの5年間で売れた台数は僅か5000台ちょっとにとどまりました。
レクサス上陸後はMMCと同時に日本でも名をSC430に改め、トランスミッションを6速にする、オーディオを改良するなど、高級車ブランドにより相応しい車へと進化しました。
平成22年に生産が終了、30年続いたソアラの歴史に幕が下りました。
レクサス LC500
出典:
平成29年春、レクサス初のFセグメントクーペ"LC500h/LC500"が発売されました。レクサスのV8クーペというポジションでいえばSC430の後継と言えます。
他車とは一線を画したその流麗なデザイン、スピンドルグリルを見事に組み込んだフェイス、グラマラスな後ろ姿は、まさに現代に甦ったソアラです。
個人的には史上最も美しい日本車と思っています。
生まれついての"F"
レクサスには末尾に数字の代わりに"F"と入っている車がいます。これは、BMWの"Mシリーズ"やメルセデスの"AMG"に相当する所謂「純正チューニングカー」で、ベースとなった車と比べて異次元の性能を誇ります。
搭載されるエンジンはいずれもV8 5.0Lエンジン"2UR-GSE"。477psを叩き出す、"F"を冠した車にのみ搭載されるモンスターマシンです。
そんなエンジンが標準で搭載される車、それが"LC500"です。デザインどころかエンジンでも他のレクサスとは明らかに違うという雰囲気を漂わせています。
因みに"LC500h"の方はV6 3.5L+ハイブリッド。これでV8 5.0L相当と主張する"ダウンサイジング"の流れにしっかり乗っています。
三菱 プラウディア/ディグニティ
日本車には飛びぬけた高級車やスーパーカーといった存在が少ないため、国産の多気筒車というのは稀です。現在はトヨタしか作っていません。
かつてはもう2社、販売しているところがありました。一つは日産、日本のビッグ3の一角ですね。もう一つはF1やインディ500に尽力しているホンダ…ではなく意外にも三菱です。
その車の名は"プラウディア/ディグニティ"。シーマ セルシオに続けと三菱自動車が「三菱」の誇りにかけて生み出した車です。
「三菱」のプライドが生んだ車
30年ほど前、日本のカーメーカーで双璧を成していたのはトヨタ/日産でした。2社は互いにライバルとなる車種を輩出し(カローラ/サニー、クラウン/グロリアなど)、しのぎを削りあっていました。
三菱自動車はこの状況で面白くないと思っていました。自分たちは仮にも「三菱」の一角なのだ、大財閥の名を冠しているのだ、断じてトヨタ/日産に後れを取るわけにはいかぬと。
そこで三菱は、この2社の車に対抗する車種を次々と開発していきました。90年代の三菱のカタログを調べてみて下さい。その車種の多さに驚くはずです。その流れでセルシオ/シーマ センチュリー/プレジデントに対抗する車も開発しました。それが"プラウディア/ディグニティ"です。
この2つの車の意味はそれぞれ"誇り"と"尊厳"。三菱の"プライド"がひしひしと伝わってきます。
驚異のV8横置きFF
そんなプラウディア/ディグニティにはとんでもない特徴があります。それは「V8 4.5Lエンジンを横置きしたFF車」ということです。
普通このレベルの高級車といえば、巨大エンジンを縦に置いたFR駆動が基本です。巨大な力を操舵輪である前輪だけに加えるのは危険だからです。しかしこの車は「車内空間の確保」を目的にFFにしてしまいました。
高級車なのにFFとは何事か…こんな下馬評が付いて驚くほどに売れず、加えてリコール隠しなどで販売が中止、その販売期間は僅かに1年でした。